現地コラム
COLUMN
石西礁湖
목차
日本最大のサンゴ礁
遠浅になっている石垣島周辺の海でも、石垣島と西表島の間の海域には、とりわけ豊富なサンゴ礁が広がっています。
約20km四方のこの海域を「石西礁湖」と言います。
このサンゴ礁は日本最大で、種類豊富なサンゴとそれに身を寄せる海洋生物も豊かであることから、1972年に国立公園に指定され、現在は西表石垣国立公園として行政から保護されています。
石垣島と周辺の島々を結ぶ高速艇のルートであるだけではなく、このサンゴ礁には数多くの海洋生物も集まっていますので、ダイビングやシュノーケリングの絶好ポイントになっています。
海が荒れていない日には年間を通してほぼ毎日、石西礁湖のあちらこちらにダイビングやシュノーケリングツアーの船が停泊しています。
八重山の美しい海の代表格、それが石西礁湖です。
サンゴの種類
石西礁湖にはおよそ400種のサンゴが生息しており、世界的にもフィリピン海域やグレートバリアリーフと肩を並べる豊かさを誇ります。
南方のフィリピンから押し上がってくる黒潮による影響と、比較的標高のある石垣島と西表島に挟まれているロケーションでもあることから、世界でもトップクラスの美しいサンゴ礁が形成されています。
多様性に富んだ石西礁湖のサンゴから、沖縄本島など緯度の高いエリアのサンゴ礁へ、黒潮に乗ってサンゴ幼生を供給する役割も担っており、日本のサンゴ礁にはなくてはならない存在になっています。
樹木状のエダサンゴ、キノコのようなテーブルサンゴ、岩そのものに見えるサンゴ、イソギンチャクのようなサンゴ、大きなキャベツのようなサンゴ、実に様々なサンゴが鮮やかに海中を彩っています。
サンゴは植物と勘違いしやすいですが、動物に区分されます。
サンゴの豊かな海には海藻や苔が少なく、そのため海水もきれいに澄んでいます。
ですが、植物が少ない海中は酸素が不足し、海洋生物も生きてはいけません。
それでもサンゴ礁には豊富な海洋生物が集まってきます。
なぜなのでしょう。
それはひとえに、サンゴのポリプに住む共生藻のおかげです。
鮮やかに見えるサンゴの色の正体はこの共生藻で、サンゴの肉の中で外敵から身を守り、サンゴが排出する二酸化炭素と排泄物を糧に生きています。
サンゴは共生藻が光合成で排出する酸素や炭水化物を供給されています。
サンゴ礁の海を海洋生物にとって居心地の良い場所にしているのは、サンゴと共生藻のチームワークに他なりません。
進行するサンゴの白化と食い止める対策
しかし、その豊かな石西礁湖も今や絶滅の危機に瀕しています。
地球温暖化に加え、台風の進路の変化による周辺海域の水温の上昇、オニヒトデの大量発生、島開発による赤土流出や生活排水による水質の汚濁など、石西礁湖の環境問題は年々深刻さを増しています。
1970年代頃までは人為的な影響もなく、原生の状態で豊かな環境が保たれていましたが、1980年頃よりオニヒトデの大量発生が始まり、多種にわたるサンゴがその餌となってその範囲も拡がっていきました。
地元の水産関係者やボランティアなど多くの人々の努力により、1990年代後半には少しずつ回復の兆しが現れました。
しかし、1998年と2007年に大規模なサンゴの白化が起こり、2008年までの5年間で石西礁湖の約7割のサンゴが消失したと報告されています。
これを受けて環境省や環境保護団体などによる自然再生事業が進められ、サンゴの移植とその後の産卵が確認されてはいますし、オニヒトデ駆除にも毎年多くの人が尽力していますが、それ以降現在まで危機的な状況はほとんど変わっていません。
サンゴの回復スピードより環境の悪化の方が早く進んでいるのです。
八重山の命を育む海
実話をもとにした2010年の映画「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」の中で、養殖サンゴの移植・産卵に生涯をささげた主人公が、「海を眺める時、昔の方がきれいだったと言うよりも、昔よりきれいになったと言いたい」と言っていました。
サンゴ礁の消滅は、その海に住むたくさんの海洋生物にとっても危機になります。
石垣島のビーチを歩くと、あまり貝殻を見かけなくなった代わりに、たくさんのサンゴのかけらが目立つことに気がつきます。
ビーチグラスもほとんど見なくなり、代わりにペットボトルが流れ着いていたりします。
ペットボトルやプラスチックは、海に流れ出しても自然に還りません。
波や風で細かいマイクロプラスチックビーズとなり、海中の化学物質を寄せ集めて海底に堆積していきます。
それが海洋生物の成長にどんな影響を与えるのでしょう。
石垣島の観光客は増加の一途を辿っています。
美しい海を求めて、世界各地から多くの人が訪れるようになりました。
海で泳ぐ時にも欠かせないのが日焼け止めですが、日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤が剥がれ落ち、サンゴに付着したらどうなるでしょう。
ハワイでは紫外線吸収剤を含む日焼け止めの流通を禁止する条例がすでに施行されています。
地球温暖化は規模が大きすぎて、自分ひとりでは何も変わらないと考えてしまいますが、ひとりひとりが意識を持って生活することで乗り越えられるものだと信じます。
石西礁湖のサンゴ礁がかつての元気な姿を取り戻すまで、どれだけの年月がかかるか分かりませんが、島民であれ観光客であれその海を眺める時には、自分にも何かできることがあるのではないかということを思い出してください。
石西礁湖は八重山の豊かな自然を育んできた海であり、未来永劫そうあり続けてほしいと願っています。
そして、その時の石西礁湖を見た人は、「昔よりずいぶんきれいな海になったね」と言ってくれるかもしれません。